ダウト~あるカトリック学校で~ 08年アメリカ
2009年03月09日 15:15
2009年3月8日TOHOシネマズ シャンテにて鑑賞
評価★★★★★★★★☆☆
原作者であるジョン・パトリック・シャンリィ自らの演出により2004年に舞台化され、2008年に監督・脚本を兼任して造られた作品。1960年代のカトリック学校を舞台にする事で、現代のアメリカを痛烈に皮肉った作品。多分。
1960年代ブロンクスのカトリック学校に勤める、規律を守り厳粛なる暮らしに従事する校長シスター(メリル・ストリープ)と、対照的に俗世に対し寛容な考えを持ち合わすフリン神父(フィリップ・シーモア・ホフマン)。そんな正反対な思想を持つフリン神父に対し、シスターはあらぬ誤解と疑惑を抱いていた。
自らの信仰と聖書を信じ、外部との関わりを避ける生き方は、現代のキリスト教原理主義者と似ている。福音派と呼ばれるその人たちは、聖書の教えを一字一句信じており、その他の情報は一切得る事を拒む。現在アメリカ人の3割が福音派と呼ばれる人たちで、今はブッシュが所属する共和党の支持基盤にまで膨れ上がり、政界にも多大な影響を及ぼしている。
俗世に寛容で先進的思想のフリン神父は今で云う革新派・リベラル派になり、政党では民主党という事になる。よって2人が対峙しあうのは必然の流れなのだ。そしてあらぬ疑惑を持たれ疑われてしまう神父は、今のイラクの立場をも背負わされている。
確たる証拠も無く、シスターが自らの”信念”や”確信”のみで神父を失脚にまで落とし入れようとするその態度は、ブッシュが大量破壊兵器所有の証拠も無い状態で戦争に踏み切った事と重なって見える。そして物語の行方さえも不明瞭な現実にオーバーラップしてしまう。
この作品の結末の付け方には不満の人も多いだろう。白黒ハッキリさせる事の多いドラマなどと違い、現実的な曖昧さ”グレー”な部分をあまりに上手く引き出してしまったせいだ。だが人間社会、というか人間そのものが曖昧な生き物であり、実はグレーこそ社会に慢延する”普通”なのだ。
サスペンスドラマという意味では物足りなく感じるが、主演2人の激化する掛け合いだけでも観る価値はある。その演技は素晴らしく、監督による多角的な人物描写も相まってキャラクターの魅力を十分惹きだすと共に、実に人間味溢れるドラマが展開される。
ただ私も「え?もう終わったの?」と感じたのはホントだ。まあ単に上映時間が短かっただけだが。
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